特集コラム Vol.9

Column Vol.9

安全文化の醸成
〜すべては「本音で話せる」環境づくりから〜

東洋合成工業は、危険物を安全に扱うプロフェッショナルです。私たちにとって安全は最重要の課題であり、さまざまな活動を進めています。
なかでも、安全文化醸成の取り組みは、東洋合成工業全体に新たな波及効果を生み出しています。

活動の背景

互いに真に信頼できる組織づくりこそ安全の根源

東洋合成工業は、2007年に大きな事故を経験して以来、さまざまな安全対策に取り組んできました。その結果、大きな事故は防ぐことができていますが、一方で小さなトラブルはなかなか0にならないという課題があります。将来の大きな事故を防ぐためには、日頃から小さなトラブルの芽を摘んでいく必要がある――その想いから、「全社員が自然に安全な行動を取ることができる文化をつくることはできないか」と考えました。
そこで、外部機関による評価を通じて、これまでの安全の取り組みにおける課題を特定し、管理職を中心に改善策を検討。しかし、「これらの改善策によって本当に安全性が向上するのか?」「社員が安全を実感し、安心して働ける環境が実現できるのか?」という疑問が提起され、さらに経営層や管理職の間で議論を重ねました。そのなかで、改善策を検討した際の深掘りが不十分であり、全員の改善策に対する納得感の不足が課題として浮上したのです。
この課題解決に向け実施したのが、「チームビルディング(後述)」でした。オープンに意見交換ができる環境をつくり、再度検討を行ったところ、先述の検討会では見落とされていた背景や原因が明らかとなり、本当の安全文化の確立には、こうした「本音で話せる」環境づくりを最優先に行うべきではないか、という気づきが生まれ、活動が始まりました。

活動の内容

本音での対話+真の課題の見える化で未来への行動につなげる

安全文化醸成の目的は、安全な職場をつくることに他なりません。安全な職場は社員の健康と福祉を守り、生産性を向上させるだけでなく、企業の信頼性と競争力を高めます。そして、社員の身体的・精神的な健康を守るだけでなく、社員の満足度と幸福感にも直結します。ただ、この考え方を言葉で理解することはできても、一人ひとりに「腹落ち」して、「自分ごと」として捉えるのは簡単なことではありません。そこで、今回の活動は以下の2つを組み合わせて進め られました。
まずは「チームビルディング」、一人ひとりの能力や個性を最大限に発揮するための環境づくりです。一人ひとりが何を考え、何を目指しているのか、それぞれが「本音」で語り合う場を設定、ここでお互いに何でも言い合える関係を構築していきます。次が、「ワークショップ」。チームビルディングで上がった声をもとに、組織として何が課題なのか、またその課題を解決するために何が必要なのかを話し合い、その後、工場やチームの目標設定に落とし込んでいきます。
こうして、組織の課題を抽出し、工場やチームの目標設定をした上で、最後は具体的な業務に落とし込みます。その過程では、HRBPが継続的なフォローを実施。このように継続的に組織開発を行い、安全文化を醸成しています。
※ Human Resource Business Partnerの頭文字を取った言葉で、組織の成長を促す「戦略人事のプロ」を指す

活動の効果

各工場のアクションに反映 個人の行動も変容

活動の効果千葉工場と市川工場では、管理職層のチームビルディングを行い、安全文化の醸成のためのアクションアイテム(= 具体的なタスクを特定する安全ワークショップを2日間にわたって開催。これらのアクションアイテムは日々、実行に移されています。その中には、これまでの取り組みの見直しや強化を図ったものだけではなく、これまでは実行が困難とされていた課題も含まれ、工場全体で変革に挑む風土が醸成され始めています。
淡路工場と高浜油槽所では、管理職だけでなく一般課員も参加する活動を展開。特に淡路工場では、全員のチームビルディングでの想いを反映した工場のスローガン「世界No.1淡路品質」が生 み出されました。年度始めに行われた業務計画発表会では、経営トップから一般課員までが一堂に会し、膝を突き合わせて会話する場が設置され、その後の安全ワークショップでは、それぞれが工場の高い目標を「自分ごと」として捉えて積極的に議論し、その結果「相手への思いやりを大切にし、コミュニケーションの活性化や各部署との連携を通じて自分自身の能力も高めて共に成長したい」という願いを共有しました。
このように今、組織全体の変革が進んでいます。

一人ひとりに芽生えた変革の胎動
〜淡路工場の事例〜

安全文化醸成の取り組みを通じて、組織全体の変容が見えている淡路工場。その取り組みや参加者の声をご紹介します。

淡路工場の特徴

チームビルディングに「レゴ®シリアスプレイ®」を活用

「レゴ®シリアスプレイ®」は、「レゴ®ブロック」を活用して頭の中のイメージを見える化し、組織について考えていくコミュニケーションツールです。淡路工場では、まず「今の○○課の状態」というテーマで課長から一般課員までそれぞれがレゴブロックで表現しました。このワークを通して、自身の内面を具体的な作品として自分の外側に可視化してメンバーに説明・共有し、質問にも回答。このプロセスによって、本当に伝えなくてはならないことに自ら気づいていき、一人ひとりが内面で感じている課の状態が全員に共有されていきます。それは必ずしも良い面だけではなく、むしろこれまで表では語られてこなかった受け入れにくい改善点も浮き彫りとなりますが、参加メンバーはこれを全て受け止めます。
次のステップでは、同じく「レゴ®シリアスプレイ®」を用いて、「理想の○○課」という題で同様のプログラムを行います。このワークにより、メンバーは自身の成長や自己実現・目的・やりがいを見つける場としての「職場の大切さ」を自発的に気付き、さらにその先の「職場仲間自身の安全を守ること」が非常に重要な価値であることを見い出されました。そして、それぞれが共有した「願い」を集約した理想の職場がレゴ作品とともに「言葉」で表現され、淡路工場の「ありたい姿」として形となり、最終的には工場全体に共有されました。

全員の思いが発信・共有された節目の一日

淡路工場
淡路生産課 課長
小林 裕之
今回の活動の意義は、何よりも「工場で働く全員が一堂に会した」という点だと思います。これまでも研修など部署を超えて人が集まる機会はありましたが、「全員」という機会はなく、東洋合成工業全体でも初めてなのではないかと思います。特に、工場長自らが工場のありたい姿を示されたことが印象的で、直接肉声で伝えたことで「世界No. 1 品質をつくっていこう」「そ のために安全文化を醸成していこう」という想いに全員が納得し、奮起することができたと思います。淡路工場の歴史のなかでも、全員の意識が変わった節目の一日になったと感じています。

全員が同じ思いであることを共有できた

淡路工場
淡路品質管理課
山本 有咲
「レゴ®シリアスプレイ®」を使ったチームビルディングが印象に残っています。1回目では品質管理課の今の姿を、2回目は品質管理課の理想の姿をレゴブロックで表現したのですが、普段は知ることのないそれぞれの本音に触れる機会になりましたし、何よりも今感じている課題や目指したいことがとても似ていたことが印象的でした。このチームビルディングがあったからこそ、品質管理課として「安全、コミュニケーション、システムの強化という3つを大事にしていきたい」という目標を共有できました。現在は、その3つを大切にしながら業務に当たっています。

本音を出すことで訪れた気持ちの変化

淡路工場
淡路生産課
土居 竜也
入社して5年が経過しますが、これまで「本音」を言う機会はあまりなかったと感じています。そのなかで、ときに悶々と悩むこともありましたが、今回思い切って本音を出してみることで、「自分はこうしたい」という思いが明確化され、前向きな気持ちになれたと感じています。他の方の意見を聞けたこともとても貴重で、特に工場長の「一人ひとりが主役となる工場にしていこう」という言葉は、「自分も実践していきたい」と素直に思えました。「みんなちがって、みんないい」という言葉がありますが、それぞれの個性を発揮し、混ざり合える有意義な取り組みだと感じています。

ベクトルを共有し前向きな雰囲気が醸成

淡路工場
淡路業務課 副主事
武田 博
もともと工場全体、課全体でベクトルを合わせていく必要性を感じており、工場としては「世界No. 1淡路品質」、業務課としては「みんなでもっと助け合おう」という方向性を共有できたことはとても意義があったと感じています。何よりも変わったのは、一人ひとりの意識です。例えば、これまでは他の社員から提案を持ちかけたとしても、「できない理由」を探しがちでポジティブになれない面がありましたが、まずは前向きに傾聴するシーンが増えたと感じています。一人ひとりに、目線を外に拡げて協力し合う姿勢が培われたことは、大きな成果だと感じています。

安全文化醸成の取り組みを先導しているお二人が、この活動に込めた思い、今後の方向性を語り合いました。

本音を伝えるからこその効果

中渡:
この活動を進めてきて何より嬉しいのは、組織や人が変わっていく姿を間近で見られること。これまで受け身だったり、自分の殻に閉じこもっていた人が積極的に発信し、周囲への気配りを見せるようになったりすると「ああ、ここまで変わってくれたんだ」と涙が出そうになります。

水戸:
ここまで変われるのは、やはり一人ひとりの主体性を軸にしているからだと思います。今回の活動を通じて、やはり「自分たちはこうしたい」という意思を持ってもらうほうが、実効力があるのだと痛感させられます。ただ、その過程では、ずっと言葉にできなかった思いや不安・不満を言葉に出して伝えることもあり、ときに意見の対立となることも少なくありません。しかし、あえて「単なる意見」で終わらせないからこそ、自分ごと化できるとも感じています。

全社に定着させるために

水戸:
これまで、チームビルディングで関係性をつくり、ワークショップで具体的なアクションを決めてきましたので、次は将来への行動につなげるフェーズだと思っています。ここでは、これまで培ってきた「本音で話し合える環境」を活かしながら、組織や個人の目標を実際の業務、アウトプットに落とし込んでいきたいと考えています。このアウトプットは、一人ひとりにとっての裏付けや覚悟が乗っているので、きっと自然と素晴らしいものが出てくるはず。後はその成果がしっかり出るように、サポートしていくことが大切です。今後、各工場に人と組織の課題解決を伴走するHRBP(Human Relationship Business Partner) を配置し、それぞれの成長に伴走するカタチがつくれればいいなと思います。

中渡:
私は今回の組織開発は、会社がある限りずっと取り組むべきものだと考えています。今後、工場に限らず全社に展開していきたいですね。この活動の効果はそこまで知られていないので、体験した人はぜひ宣伝役となって会社全体に広めてくれたら嬉しいです。そうして、会社全体で当たり前のように取り組む文化を築いていけたらと思っています。

大切な人に勧められる会社へ

中渡:
安全文化を醸成することによって、最終的に「社員が大切な人を呼びたくなる会社」になればと思っています。そのためには、もちろん自分が幸せではなくてはなりません。社員全員がそう感じられるように、継続して取り組んでいかなくてはならないと考えています。

水戸:
私たち人材総務部でも、「持続的成長が可能なイキイキ組織づくり」という取り組みをずっと続けていますが、まさにそうした組織をつくるきっかけは、今回のような安全の取り組みにもあると思っています。一人ひとりの想いを大切に、取り組んでいきましょう。

中渡:
はい。ますます参加者を増やして前に進めていきたいですね。