特別対談 Vol.2 2022年度

人々が日本の、世界の未来に希望をもてるよう、実現性のある成長ストーリーを描いていくことが企業の存在意義だと考えています。

「TGC300」から「Beyond500」へ。
経営理念を体現し、自ら成長することで社会への寄与度を高めていく

松尾:
2022年3月期は、中期経営計画「TGC300」のもと、当社一丸となって経営理念を忠実に実践してきた結果、中計目標を1年前倒しで達成することができました。そして、取締役会では、昨年来、議論を重ねてきた新中期経営計画「Beyond500」の前倒しスタートを決定することとなりましたね。

木村:
「TGC300」の前倒し達成は、非常に意義深いと思っています。達成の要因は、松尾取締役もおっしゃる通り、やはり他社がつくれないものをつくる、時代に必要なものをつくる、という当社の理念を形にしてきたことが大きいと思っています。コロナ禍の以前から半導体やディスプレイ等の市場の拡大は予想されていましたが、コロナの影響は予測不可能でした。しかし、メガトレンドとしてDXが加速する、脱炭素化が進む、そこで利用されるさまざまな半導体デバイスが必要となることは明白だったので、私たちとしてはやはりお客様が必要とするタイミングの前にそのキャパシティを用意し、需要の振れも含めて、しっかりと供給責任を果たせるよう設備投資を行ってきました。そうしたなかで、コロナ禍と米中対立によって需要は加速し、最先端半導体の激しい投資競争が起きていますが、当社はそもそも品質の差別化をモットーに、設備、ケミカル(処方)、製造技術のいずれにおいても体制強化を図ってきたので、お客様のタイミングに間に合い、売上高331億円、営業利益46億円という成果に結びつきました。

新中計「Beyond500」では、この成果を踏まえてコンセプトを練りました。世界のサプライチェーンが米中2陣営に分断されることも予測されるなか、より一層のキャパシティが求められる可能性があります。そして、コロナ後の世界は、カーボンニュートラル、EV、自動運転、メタバースや生産性向上に向けたDXなどによって、経済がドライブされると予測されています。これらを踏まえると、「Beyond500」では電子材料の分野のさらなる強化が不可欠となります。また、「TGC300」に比べ、これからの社会変革に必須な"半導体"のバリューチェーンを担う私たちは、より大きな社会的責任を負うことになります。その責任を果たすには、供給能力の拡充だけでなく、人、組織、事業が一体となって成長していかないとなりません。
従って、新中計の大きなポイントは、まず、「世界No.1ダントツの超高品質と生産性向上の両立により、未来を創る」ことをビジョンに、"人材育成"をしっかりと行っていくことになります。事業拡大するなかでのワークライフバランス、仕事の充実感、新たなリーダーの育成などの取り組みを通して、高度化する製品の生産を実現していきたいと思います。また、お客様がより高い品質を求めるに連れ、生産性は自ずと悪化してしまうので、そこを両立する製造技術の開発も不可欠で、そのためには工程の見える化や収集したデジタルデータを生産に適用していく情報基盤も必要です。基本となる安全技術力、財務体質、エネルギーマネジメント、地域との融合、ダイバーシティなどの事業基盤も強化、拡大していくべきだと考えています。

松尾:
東洋合成工業という会社は、産業の米といわれる半導体の製造に欠かせない重要材料を扱っています。従って、当社が掲げた中期経営計画をきちんとやり遂げ、アウトプットを出すことは、産業や社会のパフォーマンス向上につながります。経営理念の「人類の文明の成長を支えるため、人財・創造性・科学技術を核として、事業を行い、その寄与度を高めるためにも成長する」、これこそが東洋合成工業そのものであり、本業で確たる成果を挙げていくことが社会に対する最大の貢献となるでしょう。そして、化学工業会社にとって安全は非常に重要な事業基盤であり、ここ数年、日本のみならず、世界各地で化学プラントの大きな事故が多発していますが、これらを止めなければ、人類、社会の発展にブレーキがかかってしまいます。社長が事業拡大の局面で安全を一番目に掲げていることは非常に重要ですし、社外取締役としては、すべての従業員がその考えをよく理解し、行動していただくことを期待しています。
また、人材育成が重要視されていますが、特に日本の場合、少子高齢化等により経済成長が停滞しつつあることを考えると、企業の中で人材を育成していくことも一つの社会貢献だと思います。有能な人材を育成し、その人材によって新しい価値を生み出し、その価値がやはり持続可能な社会に貢献していく、それ自体が、社会が抱える課題に対する一つの有効な取り組みだと思いますので、ぜひ推進していただきたいですね。

真に重要な社会課題を明らかにし、非財務情報の収集と目標設定を行い、
計画的なESG 経営を推進していきたい

松尾:
東洋合成工業はまだ若い会社です。今後、ESG 経営へと舵を切るなかで、SDGsを念頭に置いた社会の課題にどう取り組むのか、目標をできるだけ明確に設定し、計画を立てて実践していってもらいたいと思っています。いまや多くの企業がESG 経営の取り組みを急いでいますが、ともすれば型にはまってしまいがちで、本来その会社がやるべき課題に取り組めてないところが大半ではないかと感じます。たしかに、やるべきことは山積みですが、焦りは禁物です。日頃、皆さんが感じている課題をきちんと整理し、それに付随した非財務情報の収集を行い、東洋合成工業にとっての課題はこれだというものを最初に明らかにしていくべきだと思います。

木村:
おっしゃる通りです。当社は長年、「地域との融合」をテーマに、工場のある土地の名産品を株主優待品にさせていただいたり、地域奨学金の創設や学生・研究機関への支援など、地域の発展を目指したさまざまなアクションをとってきましたが、それらをマテリアリティとして整理し、明示するには至っていません。当社が重視する課題をしっかりと整理して、ステークホルダーの方々にわかりやすいように明示し、もう一つ、時代とともに変遷するニーズをしっかりと取り込んでいくことが極めて重要だと考えています。
また、環境面では、エネルギーや化学品を多量に消費している化学産業ですので、現状をしっかりと定量的に把握した上でのコントロールを行っていくことが第一歩です。生産キャパシティの拡張の中でも、エネルギー利用の効率化は必須であり、数々の対策を取っていますが、循環型社会へのさらなる寄与も構想しています。これらを正確に開示できる段階にもっていき、お客様やサプライヤーの皆様のご理解を得ていくことに注力したいと思っています。

松尾:
お客様に対して供給責任を果たすことが、現在の東洋合成工業にとって最重要の使命であることは間違いないのですが、それを通じてお客様、あるいはその先の消費者のどういう課題を解決していけるのか、そこにも時々、目配せをしていただくと、よりこの「Beyond500」の実行がそのまま社会課題解決への貢献につながっていくと私は考えます。

木村:
 私も同感です。たとえば、日本では、少子高齢化、素材産業の立ち位置、社会・経済の未来など、課題は実にさまざまですが、これらに当社が取り組むには、製品への需要がないことには始まりません。今後の需要の伸びに対し、しっかりと供給責任を果たすとともに、日本の人材をどう育成し、一人当たりのGDP 上げていくのか、そこにも目を向けていくべきだと感じています。そして、人材育成に傾注し、優れた技術者を輩出していくことで、地域社会、ひいては日本、世界の未来をつくるストーリーが描けると思っています。
良い人材が育っていけば、ビジネスの成果を通して給与も増やせますし、それによって消費や子育てできる経済的な余裕も生まれ、そこで初めて出生率の改善の道筋を描けるのかもしれません。もちろん、実際に出生率を上げることは簡単ではありませんが、そこまで考えてはじめて、人々の未来を創れる企業、産業になれると考えています。

私自身としては、企業の経営目標が財務指標に偏り過ぎることも良くないと思っています。地域、産業、日本、世界の成長ストーリーのなかに、自社の事業をどう位置付けるのかが重要であり、自社の描くストーリーに実現性があれば、目先の業績だけに捉われる必要はないはずです。今の世の中、このままで日本の未来はバラ色と思っている人は多くない、若い人ほど変化の必要性を実感していると思います。若者が希望をもてるストーリー、実現できるストーリーを描いていくことが企業の事業戦略のキーポイントになると思っています。
「Beyond500」においても、 "人材育成"は先端設備の増強と同等に、非常に重要な位置づけにしています。 おそらく今後、量子コンピューター向け材料やナノ材料へのシフトが進み、当社のつくる製品の難易度はますます高まっていくでしょう。その時、これまでの勘と経験を頼りに生産をがんばってください、というわけにはいきません。やはり高い精度で製品品質をコントロールしていくには、データの見える化、DXの活用が不可欠です。 それができれば、人も意思決定しやすく、育成も加速し、生産性も上がり、製品の差別性も増し、事業も成長し、従業員の賃金も上げられる見通しが立つでしょう。

松尾:
「勘と経験」これはまさに日本の製造業が陥りやすい罠で、それで何とかなってきたのは遠い過去、すべてが右肩上がりだった時代の話です。より難易度の高い製品や革新的な技術を生み出していくには、データで裏付けされた過去の実績とそこから飛躍するアイデアが必要です。そういった着眼点をもった技術者が育ってくると、もう一歩先の当社の明るい未来が見えてきます。新たな課題というのはどんどん降り注いでくるので、真に起きていること、真の原因を探究してく力をもった人材を育てることが、当社の成長の大きな武器になるはずです。

「会社もビークル」という組織になれれば、
非連続なイノベーションの時代の中で、面白い立ち位置がとれるのでは

松尾:
課題はどんどん増えていきますが、今、世の中から求められているSDGsの課題も非常に多様です。一つはグリーンハウスガス(GHG・温室効果ガス)の削減。世界的に非常に大きな課題です。

木村:
GHG 削減には二つの貢献ができると思っています。一つはアプリケーションとしての貢献です。温室効果ガスが大幅に削減された社会を実現するためには、当然、自然を活用した再生可能エネルギーや分散電源を有効活用するスマートグリッド、IoT 機器や電気自動車などがキーとなります。そこでは通常の半導体に加え、パワー半導体も大活躍し、電力の調整能力がより効率化・精緻化していくと思います。それがグリーン・トランスフォーメーションの実体ですが、当社の生産品は、これらの技術に大きく寄与するため、そこを見える化して、ストーリーとして語れるようにしていかなければなりません。
もう一つは、化学産業としてGHGをどのように削減していくのか、です。消費エネルギーで多くを占めるのが、電力や熱を多く使う蒸留などの化学的な生産プロセスです。当社は蒸留精製からスタートした会社で、高純度化の化学技術を磨いてきました。これら精製技術を今のDXテクノロジーを使っていかに最適化していくかが、消費エネルギーやGHG 削減の要となります。2022年夏に稼働した最新の淡路工場の新蒸留塔では、最新鋭のセンサーやモニタリングシステムをふんだんに採用し、さらに廃熱の有効活用も計画しています。このような設備で、次世代半導体で使われる超高純度の溶剤の効率的なリサイクルや、生産モデルケースを構築しようと考えています。このモデルが水平展開できれば、非常に大きなGHG 削減効果が期待できます。

松尾:
そのような自力での削減活動による貢献度、そういったものを定量化して示していけるようになると良いですね。たとえば、鉄鋼会社や大手化学会社というのは圧倒的な排出量を出していますので、排出量の大幅な削減は非常に大きな課題ですから、排出量実績の公表だけでなく削減施策による目標値公表も積極的に行っています。それら他社事例もチェックし、産業界全体から見た自社のポジショニングを明確にして、自らの責任領域でのGHG 削減施策や削減目標を公表していくことも重要かと思います。そして、世界的に関心が高い課題のもう一つはサプライチェーンにおける人権の課題ですが、日本では少し課題の範囲が小さくなり、ジェンダー多様性、特に女性の活躍が一番大きなものになっています。今の日本では、雇用機会均等法から30年以上経つのに活躍できる女性の育成が進んでいない、継続的に活躍する女性を生み出していないことが最大の問題であり、これも人材育成の大きな課題の一つだと思います。

木村:
そうですね。人材育成とともに、人事制度の課題でもあると私も思っています。昨年、感光材事業部長でダイバーシティ推進担当役員の平澤取締役が日経ウーマン・オブ・ザ・イヤーを受賞し、今、男女各々の視点でキャリアとワークライフバランスをどのように両立できるのか、課題はどこにあるのかをディスカッションしてもらっています。今と管理職が育ってきた時代では、かなり環境が違いますが、ジェンダーの問題で苦労をしてきたロールモデルがいること自体、大変有難いと感じています。たとえば、女性ならではの課題を聞いた時に、男性は一旦の共感を示しますが、実際に女性と同じ体験をしているわけではないので、それは想像の域を脱しません。そこはやはり実体験を持ち、苦労を重ねてきたリーダーの存在が大きいと思います。

今、日本の人口を維持するためには二人から二人が生まれる、出生率2以上が必要ですが、女性が出産し、男女ともに、仕事と育児を分担することで女性のキャリアを維持し、二人以上を育児できる、そういった社会モデルが全く成り立っていないことが、根本的な大きな問題と思っています。男性と女性がどのようにそれぞれのロールを立て、いかに2にもっていくか、それをいかに会社が許容していくか。私は、女性が出産によってキャリアの不利益を被らないようにするには、男女同じの人事制度では恐らく不可能だと思っています。そこはあまり常識にとらわれずに、変容していくべきだと思います。

松尾:
同感です。非常に実践的な考え方です。SDGsは地球上の課題を洗い出してくれていますが、本当に自分たちの置かれている立場、実業の中で、急務となる課題は何か、課題の中身をよく勉強して早めに特定していくべきだと思います。環境やジェンダー多様性などの活動を漫然とやりながら、これがSDGsのこのゴールに当てはまりますよ、と後付けでいうのでは駄目だと思います。

木村:
はい。技術開発や組織マネジメント、人材育成もそうですが、より現実に即してすべての課題を洗い出すと、最初はカオスになります。しかし、製品でも事業モデルでも、イノベーティブなところへ、次のステージへ行こうとしたら、そのカオスを直視し、望む未来を見定め、今の現実からやり始めるしかありません。今回の「Beyond500」の前提となった議論においても、「10年後の目指したい姿は何ですか」「そのために、当社に何が必要だと思いますか」という問いを全事業所の主任、係長、管理職、役員に至るまですべてのリーダーに聞いたのですが、山ほど意見が挙がってきました。それに対する我々、経営サイドの答えは「全部やります」です。会社が舵取りを行い、大掛かりな投資を行い、人を動かしていくことは経営に必須ですが、会社がひとたび社員とともに方向性を決定したら、その実現過程では、社員一人ひとりが未来を描けるストーリーを自分のなかにしっかりもって進み、会社も彼らの意見を吸い上げながら実現していくような形が理想ではないかと考えています。「会社は社員の夢も実現するビークルです」という組織になっていけると、これからの非連続なイノベーションの時代の中で、面白い立ち位置がとれるのではないかと。

松尾:
社長が自分の耳と足で稼いで、現場の意見を吸い上げていることは私も普段から見ております。一つ注文をつけるとしたら、管理部門やサポート部門の人たちが、事業部の仕事をどう見ているかということも聞いていただき、それらの視点の意見も取り入れてもらうと良いのではと思います。そういう価値観が混ざると、経営計画はますます厚みのあるものになってくるでしょう。

木村:
はい。今日、松尾取締役からいただいた意見をもとに、また社内でいろいろな議論ができそうです。ありがとうございます。

松尾時雄 社外取締役

1980 年旭硝子㈱(現AGC ㈱)入社。2006 年同社エンジニアリングセンター長、2010 年同社執行役員CSR 室長 、(公財)旭硝子奨学会(現(公財)旭 硝子財団)常任理事、 2016 年日本カーバイド工業㈱ 顧問 、2016 年同社代表取締役社長 社長執行役員、2020 年同社顧問 、2021年当社取締役(現任)、2021年日本水産㈱ 社外取締役(現任)。

木村有仁 代表取締役社長

2001年東京大学大学院・新領域創成科学研究科修了後、日本電気㈱入社。 2003 年、当社入社。2006 年Thunderbird The Garvin School MBA 修了。 2007年当社取締役、2011年当社常務取締役感光材事業本部長。2012年当社 社長に就任。

代表取締役社長木村有仁が語る!

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